オーダーされた要素を可能な限り突っ込んでショートストーリーを書いたわけだが

 お久しぶりの日記…ですが、突発的にこんなことを初めてました。

 実際に出来上がったものはこちらでご確認ください。

 頂いた要素が実に多数にわたり、「大正時代」「メソポタミア文明」という時代メルトダウンに頭を抱えたのが非常に面白かったです。
 出来上がったものはあのような、ホントにごった煮にしたような具合ではありますが、こうして「入れねばならぬ要素」が固定されているってのは制約でもあり、そのまた逆に「悩まないで済む」部分もあったりと、それはそれで新鮮な経験ではありました。

 実際のページでも書いていますが、時代考証はかなり適当です。その手の人には指さして笑いたい所が多々あるかと思いますが、マジレスはご勘弁くださいな。

 まぁ、それはそれとして。
 何気に分かりやすい冒険譚っぽいものを書いたような気がしていて、ちょっと楽しかったです。肩の力抜いて、育児の合間を縫ってサクサクと書いてみました。
 本当に作品として仕上げるならもっともっと長考と調査を重ねた上で行うんですがね。絵描きさんがいう所の「らくがき」的な物をやってみたのは案外にして経験は無かったのかもしれんです。

 さてさて。
 これもすべてはリハビリです。今までデスマーチで執筆どころではなかったですが、ようやく仕事が落ち着き、着手するということで。

 育児ヘルプと仕事と執筆の両立の一手として、早朝起床後の散歩&執筆というスタイルを確立しようと思う昨今です。
 まぁ、すべては仕事が落ち着いていることが前提条件なんですがね…。

私にも使われていないSPECが

 「何を今更」という言葉が聴こえそうですが、テレビドラマのSPECが面白いです。

  数年前の作品なので今更説明するのもアレですが。
 Huluを使い始めた結果、御大がたまたま見てハマり、上記のような具合となり、そして自分もこの3連休でテレビシリーズの1話~最終話、テレビドラマスペシャル、更に映画版まで見終えた程度にハマってしまいました。

 あとは最後の”結”の映画2本を見るだけです。なんてこった。

 

オーダーされた要素を可能な限り詰め込んでショートストーリー書いてみた

はじめに

 という具合で。執筆開始のリハビリとしてこんなような物を試してみました。
 お暇な時にでもお読みください。中々に無茶苦茶な要素ばかりで楽しかったです。

あくまでもリハビリなので長考一切無しでガリガリ書きなぐっており、「低ボリューム」「合間合間をばっさりカット」「時代考証さっぱり無し」といった具合なのはあらかじめご了承くださいな。
あ、主人公の名前は「八菱楓子(やつびし かえでこ)」と読んでください。

頂いた要素

      1. 糸こんにゃく
      2. ネクロマンサー
      3. 染み大根
      4. メソポタミア文明
      5. 鉛筆けずり
      6. 大正浪漫
      7. 滅びのバーストストリーム
      8. スチームパンク
      9. 主人公の圧倒的敗北からの覚醒
      10. あすなろ抱き
      11. 世界滅亡まであと2年
      12. ループ系
      13. いけにえ
      14. 黒髪ロング
      15. 寺社仏閣めぐり
      16. 銀シャリ
      17. 三つ編み
      18. 目からビーム
      19. 輝く裸体
      20. 幼馴染
      21. 朧月夜
      22. デンゼル・ワシントン
      23. 美脚

謝罪:書き終えた後で気づいた

頂いた要素に、 「ガンプラ」があったことに書き終えた後で気づきました。
認識はしてたんですが、リストアップ時に漏れてて、そのままプロットからも漏れて…というオチでした。すいませんでした。orz

本文

 

三千先の月夜に

 

八菱楓子は、躊躇なく男の鼻骨を砕いた。

突き出した拳の先で砕ける軟骨の感触は、楓子の感情を何ひとつ動かすことはなかった。
ひしゃげた鼻の男は右手を伸ばし楓子の長い黒髪を掴もうとしたが、楓子はそれを難なく掴む。
そのまま壁へ打ちつけるとともに、懐刀の柄頭で親指を砕いた。
絶叫が響く。
「お引きなさい! さもなくば、次は足の腱を切りましてよ」
楓子の日本語が相手に通じることはなかったが、男は発せられた言葉の意味を状況から把握したようだ。
親指が折れた右手で、流血する鼻を押さえながら一直線に逃げていく。
途中、水甕に躓いては貴重な水がはじけ飛んでいった。

時代は1918年。国はエジプト。地中海に面した港、アレクサンドリアの街はずれの一場面である。
矢絣の袴を揺らしながら、八菱楓子は助けた少年へ拙い笑顔を作っていた。

・・・・・

八菱商店、アレクサンドリア支部は地中海を望む海岸線沿いに建っていた。
エジプトながらオリエントの流れを汲むこの街は、ギリシャ風の建物が軒を連ねている。八菱も同様であった。
正午の強烈な陽光に壁の白が一層輝き、乾燥した風が流れていく。
海上ではディーゼル船から吐き出される黒煙がいくつも上がっていた。
楓子は、商店前のガーデンテラスにて、紅茶へ蜂蜜を大量に流し込む。同じくらいの速度で、先程の事を話し続けていた。
「……と、そのようなことがありましたの」
「相も変わらず、お嬢様は流血沙汰がお好きなようで」
「グレゴリー、それは誤解ですわよ。私は正義を貫いたまでですわ」
「諒承致します。ご主人へは伝えませんのでご安心を」
対面に座るのは八菱に代々使える召使の一族で、西洋人のグレゴリーである。
アフリカ系の浅黒い肌に、皺のない執事服。16歳の楓子にとって、9歳上の兄のような、幼馴染のような存在だった。
その顔は、現代ならば「デンゼル・ワシントン似」と表現するだろう。
「問題は相手の頬骨を砕かなかった事でも、お父様から叱られることでもなくてよ。これを御覧なさいな」
言って、楓子は内袖より何かを取り出す。
「粘土板……ですね。お嬢様、こちらは如何なされたので?」
「助けた少年より受け取りましてよ。生憎、言葉は分かりませんけど、半ば無理矢理に渡されましたの」
「奪ったわけではないのですね」
「グレゴリー、貴方も鼻を砕きますわよ」
「嗚呼、お嬢様。これが所謂、ジョークというものですよお嬢様」
グレゴリーは受け取った粘土板を眺めている。
土は赤茶で煉瓦のような風合い。人の顔程度の大きさ。表面には楔形の文様が描かれていた。
「グレゴリー、おわかりになられて?」
「お嬢様、これが楔形文字というのは明快かと存じますが」
「ぴらみっどに描かれているアレですわね」
「途方もなく無学にございますね、お嬢様。あれはヒエログリフという象形文字にございます」
「残念ながら私、西洋以外の文化に興味はなくてよ」
「結構にございます。さて、こちらは楔形文字。いわゆるメソポタミア文明で使われた文字にございます。エジプト文明との交易があったという話もございますから、この地で見つかるのも決して」
「……もう既に私の理解の範疇を超えましてよ、グレゴリー。簡単に話しなさいな」
「これは太古の文字が書かれた粘土板です。書かれている文字は分かりません」
「よろしくてよ。書いてある文字は気になりますわね」
「諒解です。アッシリア学に精通した知り合いがおりますので、その者に問い合わせましょう」
「結構」
会話は終わり、楓子は何の気なしに海を眺める。
海岸線には椰子の木が並び、ギリシャ風の建物が並ぶ。望む地中海の先にはイタリアがある。
日本を出て3か月。貿易商の娘は裕福だが、世界の各地を転々とし、定住という言葉からはほど遠い。
せめてもの母国愛なのか未練なのか、楓子は当時の女学生らしく、異国でも矢絣の袴を着続けていた。
「ところでお嬢様。そろそろ昼食と致しましょう。偶然ですが、日本の食材が手に入りまして。たまには染み大根と白飯は如何でしょう」
「よろしくてよ。そろそろ豆と小麦の生活には飽き飽きしていましたの。それと、蜂蜜漬けの揚げパンもね」
異国の風の中に、微かに炊きあがる米の匂いが漂う。
楓子は郷愁を僅かに感じようとしたが、長崎の豪邸でその匂いを嗅ぐような生活は殆ど無かった事には気づいていた。

・・・・・

それから一ヶ月後のことである。
楓子とその父、八菱辰男は、ルクソールへの船旅を終えて帰ってきた。
退屈で溜まった娘の欝憤解消のため、こうした旅行は珍しくない。
その際に留守番となるグレゴリーにとっても、その時間は一時の休暇でもあった。少なくない給金を懐に、夜の街へ繰り出す日々を送っていたのだ。
その日々を内心で残念がるグレゴリーの前。楓子はガーデンテラスにて、紅茶を片手に、見てきた遺跡群について話を続けていた。
「遺跡と言えばお嬢様、例の粘土板の解析結果が出ました」
「粘土板?」
「早速お忘れですねお嬢様。少し前にお嬢様が暴漢の鼻を砕いて手に入れた物ですよ」
「私が悪漢のような物言いはやめなさいな。……それで、結果はどうでしたの?」
「結論から申しますと、あと二年で世界が滅亡致します」
「……グレゴリー、貴方のジョークは理解できなくてよ」
「お嬢様。ジョークではございません、あの粘土板はそのように書いていたのです。尤も、信憑性は聊か疑わしいですが。破滅的未来を予想した預言書の類は、それこそ世界中で発掘されております」
「世界もそれに合わせていちいち滅亡できませんわね。他にはございませんの?」
「ジックラトの祭壇でこの粘土板と生贄を捧げることが鍵となる……とのように解釈できるとのことでした。滅亡を止める鍵なのか、そのまた逆なのかは文字が削れて分からなかったそうですが」
「じっくらと?」
「メソポタミア文明の遺跡の一つです。レンガでできた巨大な神殿でして……階段ピラミッドのような物をご想像ください」
「そう。面白そうですわね」
「興味深い話にございますね」
波音。潮風が二人の間を通過した。
互いは笑顔だったが、この数秒先の言葉を予測しているグレゴリーの笑顔は引きつっていた。
「……お、お嬢様、ところで紅茶のおかわりは」
「グレゴリー、今週中に用意しなさいな」
グレゴリーは額を押さえた。この我儘なお嬢様はとにかく暇なのだ。
良かれと思って武道を学ばせたが、それが逆に未知への危機感も薄くなる結果となってしまった。
「お嬢様、念のためお聞きしますが、何の」
「当然、”じくらっと”という場所へ行く準備ですわ」
「ジックラトでございます、お嬢様。それにジックラトは一つという訳では」
「結構よ、どうせ退屈ですもの、片っぱしから観光させてくださいな。さながら仏閣巡り気分ですわね」
「おお……。神よ、この我欲に溺れる我が主人をお許し下さい……」
「グレゴリー、聞こえていてよ」
「僭越ながら、聞こえるように申したのです、お嬢様」
「そうですわね。それでは早々とお父様へお願いしに参りますわ」
楓子は紅茶を一気に飲み込んで席を立つ。後には、額を押さえるグレゴリー、背景では地中海が陽光を受けて輝いていた。

八菱商店アレクサンドリア支部。
日本語と英語、さらにはアラビア語の注文書が散乱している中を、楓子はずんずんと進んでいく。
「お父様、私はこれからグレゴリーと旅に出ます。よろしいですわね?」
「わ、分かった」
娘の問いに、八菱辰男は即答だった。財を成した者とは、そもそもとして親とは思えないほどに、挙動不審な回答だったが、今更始まったことではない。
追いついたグレゴリーが頭を抱えていた。
「ご主人様。もう少し親として心配をなされては」
「だがな、グレゴリー。断ったら楓子は散々駄々を捏ねて、最終的に家を飛び出すだろう」
「……はい」
「それならせめて、話が通じる内にと思ってな」
「相変わらず、恐ろしいまでに消極的にございますねご主人様」
「言うな。……ところで楓子よ。どこへ行くのだね?」
楓子は腕を組む。
「……じらくっと、ですわ」
「物覚えが大変残念なお嬢様へ申し上げます。ジックラトです、お嬢様」
「そう、それですわ。じとくらっと」
額を再度押さえるグレゴリーに対し、辰男が壁の世界地図を見上げた。
「ジックラトといえば、オスマン帝国の遺跡だ。オスマンと言えばついこの前、バクダットが陥落したばかりじゃないか」
「それは結構ですわ」
「それに、長い船旅になるぞ。それをグレゴリーとはいえ嫁入り前の娘と若い男で2人でいかせるなど……」
「な、何をおっしゃいますの、お父様……!」
思わず紅潮する頬を両手で隠しながら、楓子は横眼でグレゴリーを見つめる。その視線に対し、当のグレゴリーは不敵な笑顔を作った。
「その心配は無用です、ご主人様」

「あいにく、私は英国少年の尻の穴にしか興味は御座いません」

あー、その報告は要らなかったなー…と、辰男は小さくつぶやいた。

・・・・・・・・・・

その後。
ディーゼル船に乗り込み、アフリカ大陸を大回りした後にペルシア湾へ上陸した楓子達は、更にティグリス川を進んでいく。
オスマンの陥落間際である政情不安の中、グレゴリーの巧みな手配の元、難なくバクダットから更に北のサーマッラーへと到達。
宿を取り、明日から最寄りのジックラト観光と楓子が息巻いた、その夜の事である。

窓からの月光だけが光源だった。グレゴリーのイビキだけが音源だった。
楓子は用を足すため、おもむろにベッドから足を出す。窓の先では、雲が流れ月が隠れ行こうとしている。
朧月夜をしばらく眺めているうちに、楓子の耳はイビキ以外の音を拾っていた。
足音。
ゆっくりとこちらの部屋へ向かう足音である。
「……グレゴリー。ちょっと起きなさいな」
楓子の小声はイビキでかき消された。眉根を寄せつつ、枕元の小刀を握る。
息を殺し、時を待つ。
みしみしと床が軋む。近づく足音は段々と大きくなり、部屋の前で止まった。
そして、数秒。
……さらに、数分。何かが起きることはなかった。
「……………あら?」
気のせいだったのだろうか。旅先で気が高ぶっていたのかもしれない。
安心したら、忘れていた尿意が鉄砲水の如く舞い戻ってきた。
「そ、それどころではありませんわ……」
そそくさと、扉を開ける。その先には、数刻前に見た廊下が広がっているだけだった。
「ふぅ。気のせいでしたのね」
「キノセー、チガイマスヨ」
「!?」
拙い日本語は部屋だった。振り返る。
そこには、アラブ系の赤黒い肌に三つ網を垂らした女が、薄い笑顔で立っていた。
右手には金属製の杖。体には現地のローブを纏い、その隙間からは豊満な胸元と艶めかしい素足が見え隠れし、その足の先でグレゴリーの頬を歪ませていた。
「グレゴリー!」
「お、おしょうしゃま、私、なにかにめじゃめそうにほしゃいます」
「お黙りなさい! あなた、何者ですの!?」
楓子は小刀を逆手に構える。
女は答えず、笑みを変えず。代わりに変わったのは、グレゴリーの表情だった。
「お嬢様、後ろです!」
「えっ!?」
瞬間。楓子は背後より伸びた、輝く腕に抱きしめられていた。
「きゃああぁぁっ!?」
容赦なく、楓子はその腕に刃を突き立てた。肉へ刺さりゆく生々しい感触が右手に伝わる。
しかし、腕からは血が流れることなく、そして、力が弱まることもなかった。
「ムダ。ソレハ、スデニ、シンデイルデス。イタクモナイ、デス」
「補足しますと、輝く全裸の男です、お嬢様」
「余計な補足ですわ! グレゴリー、踏まれてないで、なんとかしなさいな!!」
「諒解でございます」
両手両足を地につけると、グレゴリーは踏まれた顔も気にせず、力ずくでバッタのように飛びあがった。
すぐさま巨大なリュックへ手を突っ込み、
「こういう時もあろうかと、と言うのが私の小さな夢でした!」
投げつけたのは投網。空中で広がり、ローブの女の全身に巻きついた。
「!! ナンダ、コレハ!?」
「貴方には分からないでしょう、これぞ和の食材、乾燥糸こんにゃくです! あまりにも船旅が暇で暇で、束ねて綱にして、更に暇だったので、投網に致しました!」
「……イト、コニャク?」
「要するに芋ですな。イモー。OK? 三本の矢が折れにくいように、糸こんにゃくも束ねれば立派な綱へと」
「……ヨク、ワカッタ」
ぶちぶちと。女が蜘蛛の巣を払うがごとくの動作で、網は切れていく。
その様を、グレゴリーは興味深く眺めている。
「……ふむ。やはり、糸こんにゃくでしたね」
「何やってるんですのグレゴリー!!!」
「お嬢様、生憎ですが私、ただの召使。お嬢様のように喧嘩慣れしておりませんもので」
「拳銃をお父様より渡されておりませんの!?」
「……おお! 忘れておりま」
霞む視界の中で、グレゴリーが三つ編みの女の杖で殴られ、昏倒する姿を見た。
光る死体の腕に力が増した。楓子の意識が遠くなっていく。
思考が白濁していく。窓の先の朧月が5つに分裂しては揺れていた。
……あ、漏れ……。
締め技独特の開放感を感じながら、楓子の視界は白色の闇へと、落下した。

・・・・・・・

ごうんごうん。
獣の唸るような、風の唸りのような、あるいはディーゼル船のエンジンのような。
そんな音で、楓子は目覚め始めた。
手のひらと膝が、固い石の上にいることを伝える。
「痛い……」
目を開け、体を起こす。そして、楓子は見た。
「なん……ですの……?」
そこは異様な、そして巨大な球体型の空間だった。楓子は毬の中に入ったみたいだと感じた。
周囲の壁には大量の歯車とパイプが張り巡らされ、所々で蒸気と篝火が上がっている。
楓子はいるのは球の中心。真下から突き出た六角形の石の上にいた。表面はただの白一色。入口も出口も見当たらない。
石の上には倒れたままのグレゴリーと、あのローブの女がいた。
「グレゴリー! 起きなさいな!!」
「……おお、お嬢様。……おお! これは立派な劇場で」
「寝ぼけてる場合ではなくてよ!」
楓子はグレゴリーを平手で叩く。
その光景を、ローブの女は表情なく見つめていた。
「そこの貴女! どういうことですの!? ここはどこですの!?」
――その問いに答える気はない。三千の先の者よ。
その声は重く空間中に響いた。同時に、視界の先の壁がぐにゃりと変質し、巨大な竜の頭へと変わる。
それは、無数の金属のパイプを捻じ曲げて作った、機械的で生物的な、歪な物体であった。その目だけは宝石が埋め込まれたかのような青い輝きを放っている。
「な、何ですの……!? 何なんですの……!?」
――三千の先の者よ、答えよ。争いが根絶されたか否かを。我々ヒッタイトの民が戻るに相応しき世界へ変わったかを。
肌に振動を感じ、鼓膜に痛みすら感じる声に楓子は顔をゆがめる。
「意味が分かりませんわ! まずは私の問いに答えなさいな!」
「お嬢様、ヒッタイトとは紀元前1200年前に存在した帝国の名前にございます。突如滅亡しましたが、その理由はいまだ解明されておりません……と、旅行案内書にございました」
――三千の先の者よ、答えよ。
「話が通じませんわね! ならば申し上げますわ、戦争は未だに終わっておりませんわ!」
終戦へ向けているといっても、世界大戦は4年続いている。楓子達も商売とはいえ安穏と欧州へ渡ったわけではない。
――感謝する、三千の先の者よ。我々は五百年の度、預言書を持つ者を召喚し、問いかけ続けてきた。
「ご苦労なことですわね。さぁ、早々と私たちをここから帰しなさいな!」
――感謝する、三千の先の者よ。
楓子の瞼が僅かに動くだけの一瞬。
竜の目が輝いたと同時に高速の熱線が打ち出され、ローブの女の頭を消し飛ばした。
「……っ!? 何て酷いことを!」
声を荒らげた先では、竜はその口を大きく開いていた。
「お嬢様!!」
グレゴリーは立ち上がり、抱きとめるようにしてその体で射線を遮る。
「おどきなさい、グレゴリー!」
衝撃。
抱きとめられた為に何も見えないはずの楓子の視界に、強烈な白色光が映る。
髪の毛が燃える嫌な臭い。袴の裾が燃え始めていくのを感じた。
目を開ける。
背中に回されていた右手が、床に落ちた。それ以外は、残っていなかった。
「い、いやぁぁぁぁぁっっ!!!」
楓子の絶叫が空間に反響する。
竜はすでに姿を消していた。
同時に、楓子の下から震動が始まる。ゴリゴリという岩の砕ける音を立てて、少しずつ石柱が高度を下げていく。
袴が燃えていく。
「嫌……。嫌よ……このような……!」
絶望し頭を抱えても、涙が止まらなくても、石柱は見る見るうちに下へと落ちていく。
「死にたくない……死にたくない……!」
真下まで、数メートルに達した。
石柱の真下では、巨大な鉛筆削りのような鉋が回転していた。
楓子は、それで自分が死ぬのだと確信した。
石が砕けていく。
砕けていく。
「嫌……嫌ぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
足首が切断された音を聞いた瞬間、楓子の意識は弾けるように消えていった。

・・・・・・・・・

汽笛の音で、楓子は目を覚ました。
薄暗い船室のドアを開けると、強烈な陽光が飛び込んできた。
「お目覚めですか、お嬢様」
遠くにはオスマン帝国独特の石造りの家々が見える。
「そろそろ到着しますよ。身支度を整えましょう。しかし、この辺りの少年もなかなか悪くないですね」
そうだ、私たちはジックラトの観光でやってきたのだ。
船が揺れる。潮風が楓子の髪と袴を揺らした。
頭が重い。夢を見ていた気がするが、詳細はもう思い出せなかった。
「グレゴリー」
「何でしょう、お嬢様」
何かが心の中で引っかかっていた。ただ、それは掴めることはなく、伸ばした手から煙のように消えていた。
「楽しみですわね、じらっとく」
「ジックラトです、お嬢様」
カモメが鳴いた。ディーゼル船は黒煙を吐きだしながら、ペルシャ湾を進んでいく。
強い日差しを受けながら、楓子は頬を撫でる風を感じていた。

Fin

 

頂いた要素:答え合わせ

      1. 糸こんにゃく → グレゴリーの武器その1
      2. ネクロマンサー → ローブの女
      3. 染み大根 → グレゴリーの手料理その1
      4. メソポタミア文明 → ジックラトを含めた色々
      5. 鉛筆けずり → えぐい装置
      6. 大正浪漫 → 1918年。袴に女学生言葉。
      7. 滅びのバーストストリーム → グレゴリー消滅装置
      8. スチームパンク → 最後の場所の周囲の壁
      9. 主人公の圧倒的敗北からの覚醒 → タイムリープ能力の覚醒
      10. あすなろ抱き → ゾンビに後ろからハグられちゃった
      11. 世界滅亡まであと2年 → 予言(実は人を誘きよせるための嘘ですが)
      12. ループ系 → エンディング参照
      13. いけにえ → 楓子たち
      14. 黒髪ロング → 楓子の髪型
      15. 寺社仏閣めぐり → (正式には日本の社寺を巡る事なんだろうけど拡大解釈して)過去の神殿であるジックラトめぐり。
      16. 銀シャリ → グレゴリーの手料理その2
      17. 旅 → 船旅と冒険の旅
      18. 三つ編み → ローブの女の髪型
      19. 目からビーム → ローブの女死す。
      20. 輝く裸体 → 動く死体は輝くゾンビパウダーで動きましたよ
      21. 幼馴染 → 楓子とグレゴリー。
      22. 朧月夜 → 襲われた日の夜。(wikiを見ると黄砂が影響する月夜ですが、そこはまぁ、それっぽい月夜ということで)
      23. デンゼル・ワシントン → グレゴリーのビジュアル。
      24. 美脚 → ローブの女は足がグンバツ。